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DC を静かにしてみる

製造が終わってもう 7 年経ち、経年劣化が心配な
Dreamcast ですが、まだゲームをやっているという方や
SH4 の開発プラットホームとして使用している方も
いらっしゃると思います。で、アレには悩まされていると思います。

アレとは...ファンの爆音です。おかげで、夜中にゲームや開発が
出来ないなんて状況じゃありませんか?

今回は DC を少しでも静かに使おう、という構想です。

静音化というと、ハードに何らかの負担を強いるような改造を施している
方がいますが、今回は冷却の効率を上げる事により静かします。

熱の伝わり方

ではまず、熱に関する定義(?)から整理していきましょう。
みなさんがよくご存知なのは、熱伝導率くらいだと思います。
実際、雑誌などでもその事が中心です。
しかし熱伝導率は、熱伝達というものの一項目にしか過ぎません。

熱の伝わり方は、伝導、対流、放射の 3 つがあり、これを
まとめて熱伝達というのですが、その中で伝導は、一つの物質内での熱の
伝わりやすさを示す熱伝導率、固体と流体の熱の伝わりやすさである
熱伝達率などの事を示します。
熱対流は、空気などの流体内で熱が移動する事を示し、
熱放射は、熱が電磁波となって移動する事を示します。

ヒートシンク

では、これらの事がヒートシンクを選定する上において、どのように
影響するのでしょうか?

高性能ヒートシンクの材料として思い浮かべるのは、おそらく銅ですね?
確かに熱伝導率だけを考えれば、それは正解でしょう。しかし、
熱伝達率も考えるとそうはいきません。銅は空気に触れると酸化します。
詳しい資料は発見できませんでしたが、酸化すると熱伝達率はかなり下がる
ようです。また、それを防止する為にめっきを施すと一般的には
そのめっきの材料の熱伝導率が良くない、という問題があります。

しかし、熱伝導率は良いのですから、活用したいところですね。
空気に触れず、熱を伝えなくてはいけない所...そう、ヒートスプレッダ
という役割が一番適しているのです。

では、ヒートシンクの材料は何が良いのでしょう?意外にも、アルミが
一番お手軽だったりします。アルミであれば、加工が楽な上に、
アルマイト処理により熱伝達率向上が望めます。黒色アルマイト処理なら、
熱放射の性能向上も期待できます。

色が関係あるのかよ!?と思われるでしょうが、これが関係あるんです。
色彩検定を受けた事のある方なら分かると思うんですが、完全に黒い物
を黒体といって、性質上、光や電磁波を完全に吸収、放出できるんです。
実際にはそんな物体は存在しませんが、黒っぽくする事により熱放射
しやすくなるんです。身近な例で例えると、黒い服って暖かくなりやすい
ですよね?それを逆にしてるんだ!と思うと分かりやすいと思います。

建築では逆に、屋根など地面と平行な部分を白く塗る事が流行っています。
これは太陽からの熱放射を避けるためで、最高で20度ほど躯体温度が
下がるようです。もっとも、この用途の塗料は普通の塗料ではないので、
色の影響だけではないですが...。

材料が決まったら今度は形状ですが、形状により冷却性能が違う事は
有名ですね。設計により異なるようですが一般的には、
ピン型でピンが丸い物、が良いとされています。
どうやら、比較的均等に熱が行き渡るからというのが理由のようです。

ピン同士の間隔はというと...もし自然換気に頼るのであれば、
間隔は広くとらねばなりません。なぜか?
それは、ピン表面が空気境界層というもので覆われていて、層内での対流
により熱を伝えているのですが、自然任せだと限度があるからです。
機械換気の時は、ピン間隔はせまくても大丈夫です。

風道

ヒートシンクが決まったら今度は風道です。これにもいくつかポイント
があります。換気口には角がない方が良い事は皆さんご存知なんですが、
無闇に穴を開けたり、風道が狭すぎても広すぎてもダメ、というのは
あまり知られていません。

どういう事なのか?両方とも風速に関係してきます。
物体を空気で冷やすには、風速がないと冷やす事が出来ません。
風量が増えても冷えますが、それは互いに関係しているからです。
風量と風速の関係を簡単に説明するなら、次のようになります。

まず、ストローを思い浮かべてください。ストローを使って飲み物を
飲んでいるとします。もし飲むスピードを上げたかったら、どうしますか?

1. もっと勢いよく吸い込んでみる。
2. ストローを太くしてみる。

この例をそのまま、水から空気に置き換えてみてください。
1 の場合は、風速があがる
2 の場合は、風量が増える
という事になります。

ファン

Dreamcast の場合、自然換気のみで冷却するのはかなりの困難
が予想され、なによりもう修理の出来ないのですからちゃんとファンを
お付けになる事を推奨します。

で、本当ならどういうファンが良いかをお伝えしたいところなんですが、
私にはそれに関するような専門知識(例えば、流体力学とか航空力学)
は持ち合わせていません。なので私にも分かる、dB の事についてだけ、
少しお話しようと思います。

たまに雑誌などでは、dB を計っても個人差があるのであまり参考
にならない、という意味の事が書いてあったりします。
確かにある意味では正解なのですが、少し短絡的でもあります。

ファンの騒音レベル表示はどこのメーカでもしてあるのですが、表記に
dB とdB(A)の 2 種類が混在しているようです。
実は A にはちゃんと意味があり、A 特性の事を表しています。

この A 特性だと、騒音測定時にその結果が人間の聴覚に近い
等ラウドネスレベル曲線の 40phon 曲線に合わせた補正が
なされています。したがって、こちらの方がより正確な判断が
期待できます。

もっとも、周波数により数値が変わってくるので、絶対という訳では
ありません。参考までに...人間の聴覚は 3,000Hz 付近が最も敏感です。

これら以外にも、熱貫流や熱反射なども考慮すべきなのでしょうが、
そこまでやったところで、影響はほとんどないと思われます。

以上が、基本的な知識となります。
分からない時は、私の説明が色んな意味で間違ってるせいだと思うので、
専門書などをお読みになる事をお勧めします。

では、そろそろ改造に移りましょうか。

材料

いざ改造

今回の改造は簡単ですが、かなり大胆です。
ケースのネジを外す時、一つはモデムの陰に隠れてますので
注意してください。

完全にばらしたら、ケースの加工をします。
シリアルポートなどがある面を見てください。
ここに通気口がありますね?ここの保護柵を破壊します。
その時、角を丸く整形しておくと良いでしょう。
そして、シールド板のうち、この保護柵を覆ってしまう部分を撤去します。

お次は、ヒートシンク関係を弄ります。

SH4 とか PowerVR2 との接合面は、標準では熱伝導シートが
付いていますが、これを撤去し、シリコングリス
(何でも良いが、密着させる事を考えると下手に銀入りとか使わない
方が良いのかも。)を塗った上で、40mm 角のヒートシンクをSH4へ、
50mm 角のヒートシンクを PowerVR2 に載せるわけですが、
そのままじゃ、シールド板や GD-ROM ドライブとぶつかります。

なので、塗る前にシールド板とヒートシンクを現物合わせで
適当に加工してください。(写真)
ヒートシンクのピンを出来るだけ残す事。(写真)
シリコングリスを塗るときは、真ん中にちょこんと乗せ、
そいつを押しつぶしてやると、空気も入らず良いでしょう。
また、横から少しはみだすぐらいの量を乗せましょう。

さて、加工できたら組み立てますが、この時コントローラポートの
部分の灰色のプラスチックは、はめずにそのままおいておきます。

こうする事により、流路抵抗が低くなって静かかつよく冷える
ようになります。
(ちなみに、発熱が平均的な機器の場合は、換気口は対角線上に
設けましょう。そうする事で、対流による換気が望めます。)

組み立てると、ファンがなくて自然冷却の形になってしまいますが、
このままでは安定した動作は望めないと思うので、
最後に新しくシリアルポートがある面にファンを設置します。

私はファンを設置する際、初めは吸い出す方向で設置しました。
しかし負圧が大きすぎるからでしょう、換気が出来てない様子でした。
そこで、押し込む方向で設置してみると...かなり改善され、コントローラ
ポート面から風が感じられる程になりました。DC の場合は、押し込み
(建築で言う所の第二種機械換気)にすると良いようです。

押し込み型で大丈夫というのはとてもラッキーだと思いました。
なぜなら、ファンにフィルタを付ける事により、機械内部への埃の進入を
抑える事が出来るからです。事実、半導体製造工場や手術室などでは、
第二種機械換気を基本とした換気方法が用いられています。

ファンと通気口をダクトで繋ぎますが、ファンと通気口は最低でも 30mm は
距離を空けて下さい。そうしないと負圧が大きくなりすぎて、
騒音が大きくなります。
また、ダクトとは直にくっつけないでゴムシートを挟んだりすると
より幸せになれるでしょう。

ちなみに余談ですが、このゴムを挟んでネジなどで止める時、
かなり調整がシビアです。
閉めすぎるとネジが音橋になって振動を伝えますし、緩すぎると
不要な振動が発生します。

これは、調整して丁度良い状態を見つけ出すしかありません。

ファンの電源は可能ならDC内部のファン用の 5V で良いです。
調整したいならファンコンとか外部電源が必要ですが...。

私の場合、使ったファンがうるさかったので鉄道模型用の電源を介して
駆動しました。

最後に、DC 本体を設置する時に本体の下に通気用の
スペースを設ければおしまいです。

ついでに GD-ROM ドライブも改造

せっかくです、GD-ROM ドライブの騒音対策も行ってみましょう。
このドライブ、やたらうるさいと思いませんか?

最初、私はこの音がギアが噛む音だと思いました。しかし、よく調べて
みると、ブラシモータである為に大きい騒音が発生していて、さらに、
制御が PWM 方式なのが拍車をかけているようです。参考
また、回転数が高い為に強烈なモーメントがあるのも問題です。

しかし対策をするとなれば、重心と剛心の位置あわせ、ドライブ自体を重量が
大きなもので作り直して遮音する、航空機の 2 重反転プロペラのような、
モーメントを軽減するような機構の設置などがあり、とても簡単には
出来ません。

そこで、簡単な改造のみ行ってみようと思います。

まずは、スピンドルモーターを止めている接着剤とかネジを外します。
ネジを外すと、円筒型のスペーサーが出てきませんか?
このスペーサーの代わりにゴムブッシュを挟んでやると良いでしょう。
ただし、ディスクを止めるハブの高さには注意してください。
低すぎると、ディスクをキズだらけにします。(経験者談)

そして、吸音用のスポンジを出来る限り張ってやると、
不要な反響を抑える事が出来るんじゃないかと思います。
本当は遮音をしなければ、吸音材を張った所で意味がありません。
なぜなら、吸音材自身の透過損失が低くて遮音は出来ないからです。
ほんと無駄なんですけどね...まぁ、気分的なものです。

後期型の場合

後期型の場合、ファンを撤去するには、さらなる工夫が必要です。
後期型の場合、本体がファンを監視していて、外すと即ハングします。
タコジェネをエミュレーションするといいでしょう。

JJ1ODMのチャオ様から、後期型で必要な偽タコジェネ回路参考写真
ご提供頂きました。チャオ様によると、タコジェネからは約 3.2mSEC 周期
のパルスが出ていたそうです。



編集後記

この記事の初版を書いていた頃、初期型の Dreamcast を一台潰して
実験していました。今では、その時の機体は解体済みですが、その後も
何台か DC を買って実験を重ねました。

初版では死ぬほどモータがうるさいと書きましたが、その時に使った
DC のモータのブラシと軸受が逝きかけてたのが原因だったようです。

使用時間が短い機体は若干マシですが、それでもっやぱり静かとは
言い難いです。モーターの換装しかないんでしょうが、下手に変えて
ドライバ IC が発火したとか、シャレにならないしなぁ...。

しょうがない、そのうち防音ケース作るかな。

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